2026年01月09日
中東研ニューズリポート
イラン:元皇太子の呼びかけで抗議デモがさらに拡大
執筆者
遠藤 健太郎
地域・テーマ
イラン
2025年12月28日にテヘランで発生したデモは、12日目にあたる8日、新たなフェーズに入った。パフラヴィー朝の元皇太子で米国に亡命中のレザー・パフラヴィー氏(65歳)の呼びかけに応じる形で、イラン国内の各都市で抗議デモが行われたためである。デモでは王政復古を望む声が多く聞かれた一方で、より広範な層の人々が反体制運動に合流し始めているとみられる。ただし、レザー・パフラヴィー氏の影響力やイラン当局の対応など、デモの推移には不確定要素も多い。
元皇太子によるデモ参加の呼びかけ
レザー・パフラヴィー氏(以下、レザー)によるデモの呼びかけは1月7日、自身のXやインスタグラムの公式アカウントに投稿されたビデオメッセージを通じて行われた。この中でレザーは、今次のデモを継続させることが重要であるとして、イラン国民に対し8日と9日の夜8時に「街頭で声を上げる」よう求めていた。なお、参加の難しい者は自宅で行ってもよいとしている。この日時が選ばれた理由は、イランでは金曜日が休日であり、木曜日の夕方から予定を空けている人が多いためと考えられる。
この呼びかけに応じる形で、8日夜、テヘラン、タブリーズ、ゴム、マシュハド、サナンダジュ、ケルマーンシャー、アルダビールなど100以上の都市でデモが実施された。参加者の人数は不明だが、SNS上に投稿された映像では、特に首都テヘランと東部の中心都市マシュハドで、大通りを数百メートル先まで埋め尽くすほどの群衆が確認でき、少なくともこの2都市では、おそらくこの12日間で最大規模のデモになったと見られる。また、これまで組織的なデモは中小規模の地方都市で多く行われてきたが、8日を機にその傾向が初めて大都市にも波及したといえる。
8日夜のデモの特徴
これまで各地で行われてきたデモは、治安部隊への投石や道路の封鎖、公共物の破壊、放火などをともなうことが少なくなかった。しかし、8日夜のデモの多くは通りを整然と練り歩く形式で行われ、一部では道路標識の破壊や建物・路上での火災、警察車両への放火等もあった模様だが、おおむね平和的なものだったことが映像からはうかがえる。テヘランでは治安部隊が催涙弾を使用したとの情報もあるが、殴打や発砲による激しい弾圧は、8日夜に関しては報告されていない。
しかし、この日のデモの最大ともいえる特徴は、参加者の構成である。これまでは比較的若い男性を中心にデモが行われてきたが、8日夜には家族連れと見られる人々の姿が目立った。これは、デモが女性や中高年層など、より広範な国民の支持を得て拡大しつつあることを示す兆候として注目に値する。
一般に反体制デモは、「職種」「地域」「世代」の3つの壁を乗り越えることで拡大する。このうち、職種についてはバーザール商人や両替商らが始めたデモに大学生らが合流した昨年末の時点で、すでに乗り越えられていた。大都市を含む100都市以上にデモが拡大し、女性や中高年層も加わった今、残る2つの壁(地域と世代)も乗り越えられたことになる。
デモ参加者の主張
デモに参加した人々は、様々なシュプレヒコールを叫びながら行進した。その主なものは、「独裁者に死を」「今年は血の年、セイエド・アリー(=ハーメネイー)を打倒せよ」「ハーメネイーは殺人者、彼の統治は不当」など、最高指導者を糾弾するもののほか、「シャーよ、永遠なれ」「レザー・シャーの魂よ、安らかに」「これは最後のたたかいだ、パフラヴィーが戻ってくる」といった王政復古を希求するものが中心である。
これらはいずれも、昨年12月以降はもちろん、それ以前を含め反体制デモの際には必ずといってよいほど聞かれる定番のシュプレヒコールである。ただし、8日夜のデモがレザーの呼びかけで実施されたという経緯から、とりわけ王政復古に関するものは熱心に繰り返し唱えられていた印象を受ける。
しかし、そのことはこの日のデモが王政復古を目指す、いわゆる「王党派」(ペルシア語でsaltanat-talabān)のみによって組織されていたことを意味しない。なぜなら、イスラーム体制に代わる有力な政治勢力が不在の中、ひとまずレザーと「王党派」に消極的な支持を寄せているに過ぎない国民も相当数いると考えられるからである。すなわち、「イスラーム体制を打倒するためにはレザーを利用するしかない」という発想である。
8日夜のデモが計画的に行われたものであったにもかかわらず、王政に関連する肖像、プラカード、横断幕などが、一部の例外を除きほぼ用いられなかったことも、(当局の弾圧を恐れたことを考慮しても)いまだ王政復古への機が国内的に熟していないことを示しているように思われる。
今後の見通し
8日夜のデモを受け、イランの当局はテヘランを含む全国の広い範囲でインターネットを遮断し、9日朝の段階でいまだ復旧していない。しかし、すでにレザーはこれを見越し7日、インスタグラムで「インターネットの遮断は次のデモへの招集である」と述べているほか、8日夜のデモが大規模かつ比較的平和裏に遂行されたことに国民が自信を深めているとすれば、9日夜もレザーの指示通りデモが実施される可能性が高い。
レザーは、これまでもイランで大規模な反体制デモが発生するたびに、国民に対して積極的な参加を呼びかけてきた。ただし、今回のように日時を指定し、しかもそれに多くの国民が呼応する形でデモが展開していくのは前例のないことである。さらに、レザーは現在、トランプ大統領との距離の近さをアピールしており、9日にも今次のイランにおけるデモへの大統領の支持に感謝するツイートをXに投稿している。今後は、レザーが米国をはじめとする国際世論をどこまで喚起できるかがデモの推移に少なからぬ影響を及ぼすことが予想される。一方、レザーの影響力拡大を恐れるイスラーム体制が、9日以降、再び武力を用いた厳しい対応でデモを弾圧する可能性も排除できず、予断を許さない。