2025年02月19日

中東研ニューズリポート

サウジアラビア:ウクライナをめぐる米ロ対話の場を提供

執筆者

近藤 重人

カテゴリー

政治

地域・テーマ

サウジアラビア, 米国・カナダ, 欧州
 サウジアラビアは2月18日、米国のルビオ国務長官とロシアのラブロフ外相のウクライナ問題をめぐる会談の場を提供した。サウジアラビアは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、同紛争に対して中立の立場を取ってきたが、今回の仲介を国威発揚の機会と捉え、世界平和をもたらすアクターとして自らを位置付け、同時に米国・ロシアとの関係も強化させている。

会談の概要


 米国のトランプ大統領は2月12日に、ウクライナでの戦争を終結させるためにロシアのプーチン大統領と「おそらくサウジアラビアで初めて会うことになるだろう」と発言していた。同日にはロシアで拘束されていた学校教師マーク・フォーゲルが釈放されたが、これについて米国のウィトコフ中東和平特使はサウジアラビアのムハンマド皇太子が「後押しした」と語り、またロイターは関係者の話として、ロシア直接投資基金のドミトリエフCEOも交渉に関与したと報じていた。サウジアラビアは2月14日に同国での米ロ首脳会談開催を歓迎するという声明を発出した。

 2月18日にサウジアラビアで開催された会談で、米側はルビオ国務長官、ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、ウィトコフ中東担当特使、ロシア側はラブロフ外相、ウシャコフ外交政策顧問、サウジ側はフェイサル外相とエイバーン国務相(安全保障担当)が出席していた。会談には同席しなかったが、ロシア側の訪問団の中には上述のドミトリエフCEOもいた。米国務省の発表によると、会談ではウクライナにおける紛争をできるだけ早期に、永続的かつ持続可能で、すべての当事者が受け入れられる形で終結させるための作業を開始するための高官チームを、米ロがそれぞれ任命することなどで合意した。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は2月19日にサウジアラビアを訪問する予定であったが、18日の会談を受けて訪問を延期すると発表した。同大統領は「我々は、サウジアラビアで開催されたこの米ロ会談に招待されていなかった。それは我々にとって驚きであった」などと語っている。サウジアラビアはウクライナに人道支援を行ったり、2023年には同大統領をアラブ・サミットに招待するなど、同国との関係も重視していたため、同大統領が予定通り訪問することを期待していたはずだが、今回そこまでは実現しなかった。

 サウジアラビアでは米ロの会談の場を提供したことを自賛するような情報発信をしている。たとえば、サウジアラビアのリーマー駐米大使は同国が歴史的にも「対話の架け橋」としての役割を果たしてきたとXで発言、またサウジ国営通信はパレスチナなどが今回のサウジアラビアによる会談の開催を歓迎したと報じている。サウジアラビアはシリアに関する国際会議などを主催し、地域における外交努力を積極化させているが、今回の仲介はグローバルレベルでの仲介であり、国威発揚の格好の機会となっている。

米国、ロシアとの二国間会談


 サウジアラビアは今回の両国外相の訪問の機会を捉え、両国との関係強化も同時に図った。たとえばムハンマド皇太子はルビオ国務長官と会談し、米国の発表によれば同長官が両国の経済および防衛協力の拡大を期待し、二国間パートナーシップのさらなる強化を約束したとのことである。また、両者はガザでの停戦の実施についても協議したとのことである。ただし、トランプ大統領が2月5日に発表したガザの住民移送を含む提案についてはサウジアラビアでも強い反発が見られていた。サウジアラビアは同案に対するアラブ側の立場を協議するための会議の開催を現在調整している。

 ムハンマド皇太子はラブロフ外相、ドミトリエフCEOとも個別に会談し、特に後者では両国の経済関係の強化について協議されたものと考えられる。

今後の展望


 トランプ大統領は2月18日、今月中にプーチン大統領と会談する可能性があると発言し、またゼレンスキー大統領が会議から排除されたことを非難したことについて「残念だ」とも語った。サウジアラビアは今回の外相会談を首脳会談につなげたい意向であるが、その場合は今回の会談に参加しなかったウクライナ、そして同国を支援してきた欧州や日本などを、今後どのように対話に関与させていくかが課題となるだろう。