2021年09月08日

中東研ニューズリポート

アフガニスタン:ターリバーン、新内閣を発表

執筆者

渡邊 駿

カテゴリー

政治

地域・テーマ

その他
 9月7日、ターリバーンは新内閣の閣僚名簿を発表した。閣僚は全33名、うち女性は0名。8月15日にカーブル入城を果たして以来、3週間が経っての出来事である。必要な政府業務を行うための暫定内閣とされ、閣僚ポストには全て「代行」が付されている。

閣僚の人選


 今回の暫定内閣はターリバーンの古参の人物によって占められている上、ウズベク人1名、タジク人2名が含まれてはいるものの、その他はパシュトゥーン人に占められる内閣となっている。注目される人事は以下の通り。

・ムッラー・ムハンマド・ハサン・アーフンド首相代行:2001年までのターリバーン政権時代には外相や副首相をつとめ、その後も統治評議会の長として活動してきた人物である。国連の制裁リストに入っている。

・ムッラー・ヤアクーブ国防相代行:ターリバーンの初代最高指導者ムッラー・ムハンマド・ウマル(2013年死去)の息子。2020年5月より、ターリバーンの軍事委員会委員長を務めてきた。

・ムッラー・アブドゥルガニー・バラーダル第1副首相代行:在カタルのターリバーン政治部のトップを務めた。

・マウラヴィー・アブドゥッサラーム・ハナフィー第2副首相代行:在カタルのターリバーン交渉チームの一員を務めた。

・シラージュッディーン・ハッカーニー内務相代行:強硬派として知られるハッカーニー・ネットワークの指導者で、妻の1人はUAE出身とされる。なお、彼はFBIの指名手配リストに入っており、逮捕につながる情報には500万ドルの報奨金が出る。
* ハッカーニー・ネットワーク:1995年よりターリバーンに忠誠を誓ってきた軍事組織で、諜報活動に長けている集団であるとされる。2012年以来、米国からテロ組織認定を受けているほか、テロ組織アルカイダとの関係も指摘されている。指導者シラージュッディーンのほかにも、「ハッカーニー」名の付く人物が、高等教育相、諜報相、移民相の代行に就いている。

・ザビーフッラー・ムジャーヒド副通信⽂化相:ターリバーンの報道官。

最高指導者による声明


 ターリバーンの指導者(「信徒の統率者」)であるムッラー・ヒバトゥッラー・アーフンドザーダは、今回の新内閣誕生にあたり声明を発出している。その中で、この新内閣がアフガニスタンにおいてイスラームの諸規則とシャリーア(イスラーム法)を維持するべく尽くすことを保証すると述べたほか、自国領土を他国の攻撃に使わせないこと、イスラームの枠内での人権・少数派の権利の尊重といった点にも言及した。アーフンドザーダは2016年よりターリバーンの最高指導者となったが、公式の場に姿を見せたことがなく、謎に包まれた人物である。今回の声明も先月のカーブル入場後、初めてのものであった。しかし、この声明で新内閣の政策方針に言及している点を踏まえると、アーフンドザーダが今後のアフガニスタン国家運営にも強い影響力を示していくことが想定される。

今後の見通し


 第一に注目するべきは、ターリバーンの実際の統治の動向である。最高指導者の声明は、これまでターリバーンが繰り返してきた通り、シャリーアに基づく統治を行うというものであった。人権・少数派の権利の尊重に言及が見られるものの、イスラームの枠内での尊重という条件が具体的にどのような解釈へと至るのかは定かでない。前政権時代、シャリーア統治の名の下で行われた様々な人権侵害行為が国内外から強く批判を受けていたが、これが繰り返されることとなるのか、それとも何らかの変化が見られることとなるのだろうか。女性の人権は特に多くの関心を集めるイシューであるが、今回の閣僚名簿には女性は含まれておらず、今回の発表はポジティブな印象を与えるものではない。

 第二に、今後の正式な内閣の編成動向も注目される。これはあくまで暫定政府であるというターリバーンの見解をもとに考えるならば、今後、正式な内閣の組織が予定されているということになる。今回の政権掌握にあたり、ターリバーンは国際社会に対し、アフガニスタンの多様な民族構成を反映した包括的な政府を作るとの意向を繰り返し表明してきた。この暫定内閣の後に誕生することとなる(はずの)正式の内閣において、それは実現することとなるのだろうか。そもそも、正式の内閣の成立はいつになるのだろうか。この「暫定」内閣のまま、ターリバーンが内閣を独占した状態での統治が継続することとなるのだろうか。今後の動向が注目される。

 第三に、国際社会の対応である。今回の新内閣の発表とそれに伴う最高指導者による声明は、ターリバーンがアフガニスタンを統治していくという意志を国際社会に対して改めて表明するものであった。人権・少数派の権利の尊重や自国領土を他国の攻撃に使わせないといった点への言及、および今後アフガニスタンの多様な民族構成を反映した包括的な政府を作るという意志の表明は、国際社会の要求に対応するものとなっている。しかし、これらの点はカーブル入城後繰り返し言及されてきたものであり、内容に新しさは見られない。具体的で詳細な政策のビジョンは見えてこないほか、声明に対応する実際の活動もまだ見られていない。この点を踏まえて考えると、国際社会は今後のターリバーンの活動を注視するという対応を取ることになると想定され、ターリバーンが求めている、国家承認への道のりはまだ長いと考えられる。

 ただし、ターリバーンが新内閣発足式典にトルコ、中国、ロシア、イラン、パキスタン、カタルの6カ国を招待したとの報道が9月6日(月)に見られた。これらの国々は国家承認も含め、積極的にターリバーンによる新内閣とも関わりを持っていくことが想定される。これらの国々の動向は特に注視が必要であろう。

閣僚名簿一覧


⾸相代行:ハーッジ・ムッラー・ムハンマド・ハサン・アーフンド
第1副⾸相代行:ムッラー・アブドゥルガニー・バラーダル
第2副⾸相代行:マウラヴィー・アブドゥッサラーム・ハナフィー(ウズベク人)
国防相代⾏:マウラヴィー・ムハンマド・ヤァクーブ・ムジャーヒド
内相代⾏:ハーッジ・ムッラー・シラージュッディーン・ハッカーニー
外相代⾏:マウラヴィー・アミール・ハーン・ムッタキー
財務相代⾏:ムッラー・ヒダーヤトゥッラー・バドリー
教育相代⾏:シェイフ・マウラヴィー・ヌールッラー・ムニール
通信⽂化相代⾏:ムッラー・ハイルッラー・ハイルフワー
経済相代⾏:カーリー・ディーン・ハニーフ(タジク人)
巡礼ワクフ相代行:シェイフ・ヌール・ムハンマド・サーキブ
司法相代⾏:マウラヴィー・アブドゥルハキーム・シャルイー
国境部族相代⾏:ムッラー・ヌールッラー・ヌーリー
村落開発相代⾏:ムッラー・ムハンマド・ユーニス・アーフンドザーダ
宣教指導勧善懲悪相代⾏:シェイフ・ムハンマド・ハーリド
公共事業相代⾏:ムッラー・アブドゥルマナーン・ウマリー
鉱物⽯油相代⾏:ハーッジー・ムッラー・ムハンマド・イーサー・アーフンド
⽔電気相代⾏:ムッラー・アブドゥッラティーフ・マンスール
⺠間航空交通相代⾏:ムッラー・ハミードゥッラー・アーフンドザーダ
⾼等教育相代⾏:マウラヴィー・アブドゥルバーキー・ハッカーニー
諜報相代⾏:マウラヴィー・ナジーブッラー・ハッカーニー
移⺠相代⾏:ハーッジー・ハリールッラフマーン・ハッカーニー
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中央銀⾏総裁代⾏:ハーッジー・ムハンマド・イドリース
参謀総⻑:マウラヴィー・アフマド・ジャーン・アフマディー
副国防相:ムッラー・ムハンマド・ファーディル・アーフンド
軍司令官:カーリー・ファシーフッディーン(タジク人)
副外相:シェール・ムハンマド・アッバース・スタニクザイ
副内相:マウラヴィー・ヌール・ジャラール
副通信⽂化相:ザビーフッラー・ムジャーヒド
第1副諜報相:ムッラー・タージ・ミール・ジャワード
副諜報相(官房):ムッラー・ラフマトゥッラー・ナジーブ
副内相(⿇薬担当):ムッラー・アブドゥルハック