2019年11月18日

中東研ニューズリポート

イラン:ガソリン値上げに抗議のデモが全国で発生

執筆者

坂梨 祥

カテゴリー

政治, 経済, エネルギー, 治安・テロ

地域・テーマ

イラン
 11月15日(金)のテヘラン時間で朝0時、イランではガソリン価格値上げの発表が行われ、これを受けて広範な抗議行動が発生した。17日(日)までに抗議行動が発生した都市は全国数十か所以上に上り、逮捕者も1,000名以上に上ったと報じられている。

 イランのファールス(Fars)通信の報道によれば、この抗議行動では銀行や大型店舗が放火され、被害にあった銀行は100行以上、店舗は57軒以上にのぼった。ロウハーニ大統領は「抗議行動と破壊行動は異なる」と述べ、政府当局は混乱の拡大を防ぐべく、インターネットを遮断した。

ガソリン価格値上げとその背景


 イランにおいて、ガソリン価格は極端に低く抑えられてきた。今回値上げが発表されるまで、1リッターあたりの価格は1万リアルであり、現在の市場為替レート(1ドル約12万リアル)で換算すると、ガソリン価格は約8セント/リッターと安価であった。今回の発表によって、ガソリン価格は1ヶ月60リッターまでは1.5万リアル/リッター、それ以上の使用分については3万リアル/リッターに引き上げられた。

 イランでは実は昨年2018年1月の時点で、「燃料カード(ガソリン配給制のためのカード)」の再導入が発表され、1人当たりのガソリン使用量に制限を課す方針が明らかにされていた。しかしそれ以降、今年2019年9月の時点でも、燃料カードが未達の国民も多く、燃料カードで購入できるガソリン量の上限および価格に関しても、情報が錯綜していた。

 これは、イランに対する制裁が強化される中、政府には国内のガソリン消費を抑制し、価格の引き上げにより補助金負担も軽減させる差し迫った必要がある一方、ガソリン価格の引き上げが国民の広範な抗議行動を惹起することは火を見るより明らかであったからである。とはいえ燃料カードの再導入が発表されて以降、メディアは使用量上限あるいは「新価格」に関する憶測を時々流し、いわば国民の「心の準備」を促していた。

 なお、イランではガソリン価格が極端に低いため、周辺諸国への密輸も問題とされてきた。燃料カード導入による使用量上限の設定は、「密輸防止」策ともうたわれている。

値上げ断行の理由


 しかし、「最強の対イラン制裁」のもと、国民の生活がただでさえ苦しくなっているなか、それに追い打ちをかけるようにガソリン価格を引き上げることは、今の政府(体制)にはできないのではないか、との観測もあった。今回ロウハーニ政権が値上げに踏み切り、ハーメネイ最高指導者がその方針を「支持する」と明言した背景としては、以下の理由が考えられる。

 第一に、政府の財政がそれだけ苦しくなっているという可能性がある。イラン政府が支出しているエネルギー価格への補助金総額は、年間450億ドルに上るとも発表されている(2019年9月の、イラン商工鉱業・農業会議所のエネルギー委員会委員長の発言)。現在イランの原油輸出量は制裁前(2017年)の1割にも満たず、すでに20万b/dも下回るとの指摘がある中、政府が現実問題として、そのような負担を担えなくなっている可能性があるだろう。

 第二には、ガソリン価格の値上げは「誰かがやらなければならない」と皆がわかっていながらも、誰も(国民の反発を恐れ)踏み切れなかったものである一方、任期が残り2年を切ったロウハーニ政権に、ハーメネイ最高指導者を頂点とする体制指導部がその任務を託した可能性がある。2020年2月には国会選挙が予定されているが、ロウハーニ政権によるガソリン値上げの発表は、ロウハーニ政権への支持層の一角を切り崩すものとみなされた可能性もあるだろう。

 第三に、現時点でこの抗議行動は、収拾不可能な規模にまで拡大しているとはいえない。2017年末にイラン北東部マシュハドで発生したデモも、瞬く間に全国70都市以上に拡大したが、1週間あまりで沈静化した。体制には、たとえ抗議行動が発生した場合にも、体制はそれに「対処可能」との判断があったようにも思われる。

 イランにおける抗議行動の拡大を受け、米国のポンペオ国務長官は17日付でイラン国民に対し、「米国はあなたがたとともにある(The United States is with you.)」と激励のツイートを行った。最強の制裁でイランの庶民を苦しめているトランプ政権は、あくまでもそれは「イラン国民のため」という姿勢を維持したいようである。イラン国内でそのような言葉を、額面通りに受け取る者は少ないだろう。