2018年11月30日
中東研ニューズリポート
シリア:第11回アスタナ会合は特段の成果なく終了
執筆者
小副川 琢
カテゴリー
政治
地域・テーマ
シリア, 東地中海
11月28日から29日にかけて、ロシア主導のシリア国際協議がカザフスタンの首都アスタナにおいて開催された。11回目となる今回の「アスタナ会合」も特段の成果なく終了したが、次期協議の開催は来年1月末が予定されている。
アスタナ会合の開催に至った経緯
2011年3月に本格化したシリアにおける反体制の動きがその後、武装闘争の様相を色濃くした中で、国連は2012年6月以降、ジュネーブにおいてシリア和平協議を開催してきた(「ジュネーブ協議」)。だが、アサド政権側と反体制側の溝が大きいことから、ジュネーブ協議が成果を生み出さなかった状況において、とりわけ2015年9月以降に同政権の支配領域回復を軍事的に強力に支援してきたロシアは、シリアにおける自らの影響力の高まりを背景に独自和平を推し進めることで、「パックス・ロシアーナ」を確立することに利益を見出した。
折も折、トルコ軍機が2015年11月にシリアとの国境上空においてロシア軍機を撃墜して以来、ロシア・トルコ関係は悪化していたが、2016年8月のプーチン大統領とエルドアン大統領による首脳会談以後、両国関係は改善が進んでいた。ロシアは反体制側の後ろ盾でトルコとの協力を必要であると見なし、他方でトルコも同年7月のクーデタ未遂事件以来、ギュレン氏の引渡しなどをめぐって米国との関係を悪化させたことから、ロシアとの関係を重視するようになっていた。
こうした中で、ロシアとトルコの首脳は同年12月16日に、米国や国連が関与しない新たなシリア国際協議をアスタナで開催するとの意向を表明した。また、ロシア、トルコ、及びイランの外相及び国防相が同20日に会談し、停戦拡大やシリア政府と反体制派との合意策定の促進などを内容とする「モスクワ宣言」を採択した。そして、国連が同31日に安保理決議第2336号の採択を通じ、ロシア及びトルコ主導の停戦並びに和平会議開催を支持した結果、アスタナ会合は国際的なお墨付きを得ることになったのである。
アスタナ会合のこれまでの成果
アスタナ会合はこれまで、ロシア、トルコ、そしてイランを主催国として10回にわたり開かれており、第1回会合(2017年1月)、第2回会合(同年2月)、第3回会合(同年3月)においては、第2回会合でアサド政権側と武装勢力の直接交渉が短時間行われた以外、特段の成果なく終了した。その後、第4回会合(同年5月)で、ロシア、トルコ、及びイランを「保証国」とする「緊張緩和地帯」の設置が決まった。同地帯は、イドリブ、ホムス北部、ダマスカス郊外東グータ、シリア南部に設置され、イドリブ以外では同年7月から8月にかけて停戦が発効した。しかしながら、ロシア軍やシリア政府軍はその後、「テロ組織」と見なすシャーム解放委員会や「イスラーム国」(IS)がこれら地区に拠点を構えていることなどを理由に攻撃を行い、現時点までにイドリブ以外はアサド政権側によって掌握された。
なお、第5回会合(2017年7月)、第6回会合(同年9月)、第7回会合(同年10月)、第8回会合(同年12月)、第9回会合(2018年5月)、そして第10回会合(同年7月、但しソチで開催)共に、大きな成果なく終了している。
第11回アスタナ会合の成果
今回の会合には、ロシア、トルコ、並びにイランの各政府代表団に加え、シリア政府及び反体制派の代表団、さらにオブザーバーとしてヨルダン政府関係者及び国連関係者が参加した。これまでの会合に何度か参加した米政府関係者の姿は、今回見られなかった。
2日に渡る会合では、関係者間で様々な協議がなされたが、結果的に注目すべき成果は生じなかった。焦点の、イドリブにおける「非武装地帯」の設置や、新憲法を議論する「憲法委員会」の樹立に関しては、会合終了後の29日にロシア、トルコ、そしてイランによって出された共同声明において、実現に向けての努力が言及されたのみであった。
今月限りで退任するデ・ミストゥーラ国連シリア問題特使は29日に、とりわけ憲法問題に関して進展が見られなかったことに失望を表明したが、他方でラブレンティエフ露大統領シリア特使は28日の時点で、「次回のアスタナ会合が来年1月末に開催されるかもしれない」との発言を行った。ロシア側は、今回の会合で大きな成果が期待出来ないことを初日の時点で見通していた反面、次回日程に言及することで、引き続き会合の主導権を握っていく意向を明確に示したと言えよう。