イランのアフマディネジャード大統領は4月11日にアブー・ム ーサ島を訪問した。その理由については様々な憶測が流れているが、 少なくとも明らかなのは、この訪問の目的はアブー・ムーサ島の領 有を改めて主張することにはなかった点である。イランはアブー・ ムーサ島の領有権をめぐり問題が存在するという立場はとっておら ず、大統領の思惑は、まったく別のところにあった。
大統領の思惑はまず、イラン国内における支持の基盤を、これを 機に固めなおすことにあった。今回の訪問を経てイラン国内におい ては、通常では大統領に非常に批判的でこれまで大統領の「封じ込 め」に様々な形で加担してきた大物政治家たちが、軒並み大統領の 行動をたたえ、これを支持する発言を行っている。すなわち大統領 は、今回の訪問がUAEを筆頭とする周辺諸国からの強い反発を引 き起こすことを織り込んだ上で、それらの反発を「立ち向かうべき 共通の相手」と位置づけ自らの基盤固めをねらう「ナショナリスト・ カード」を、今般敢えて切ったのだと言える。
その表れに大統領は、アブー・ムーサ島で行った演説において、 これまで体制派・反体制派、あるは国内在住・在外の区別を問わず、 あらゆるイラン人を憤慨させてきた「ペルシア湾という呼称の(「ア ラビア湾」への)変更の試み」を強く非難する発言を行っている。 そして大統領のこのような発言は、当然のことながら今回も、少な くともイラン国内においては幅広い支持を集めた。
次に、大統領の発言が、14日に1年3ヶ月ぶりにイスタンブール で実施された、イランとP5+1の核協議の直前に行われたというタ イミングも重要である。今回の核協議に際しては、過去1年にわた るハーメネイ最高指導者や国会による数々の牽制・攻撃を受け、す っかり影が薄まっていた大統領の意向に注意が払われることはほと んどなかった。今回の核協議に際して注目が集まったのは、むしろ ハーメネイ最高指導者の動静であり、その命を受けて交渉に臨むと されたジャリーリ国家安全保障最高評議会事務局長の立ち振る舞い であった。
そしてそのような中、大統領は南部ホルムズガーン州訪問という 機会を捉え、イランでは同州の一部と位置づけられるアブー・ムー サ島の訪問に踏み切ることにより、自らの存在を内外にアピールし ようとしたと考えられる。そしてその結果当然巻き起こる対岸から の非難は、国内における自らの基盤固めに資すると見なされたもの と思われる。
領土問題においては双方が領有の正当性を主張することが常であ り、問題が一昼夜にして解決されることはあり得ない。今回の大統 領のアブー・ムーサ島訪問は、むしろその点もふまえた上での政治 的パフォーマンスであったと考えられる。そしてその結果大統領の 国内人気は一時的には盛り返したが、一方で周辺諸国との間には問 題が生じ、そのような手段に訴えなければ存在をアピールできない という今日の大統領の苦しい状況も、はからずも明らかになったと いえる。
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