中東経済研究所 情勢分析 (2000年11月24日Vol.2, No.15)
イラク:ジェイハンからの船積みを一時中断
11月7日、イラクはトルコのジェイハンからの船積みを中断した。これはイラクが要求していたユーロ建ての決済開始が、国連の手続き上の問題で遅延したことに抗議して輸出を停止したものである。同日国連がユーロ建てへの移行に関する手続きを全て終了したことで、多少の混乱は発生しているものの、少なくとも船積み手続きは翌8日から再開された。一方、ペルシャ湾岸のMina al-Bakrからの船積みは通常通り継続されていた。国連への抗議をより効果的にするためには全ての船積みを中断しても良さそうなものであるが、その背景には何らかの事情があったものと思われる。
まず、イラクは他のOPEC諸国がOPEC総会並びにOPECサミットで市場の安定化に貢献すると表明していることに配慮して、ジェイハンからの船積みだけを中断し供給途絶量を圧縮したと考えられることがあげられる。11月1 - 10日バグダードにおいて貿易フェアが開催されていた。アラブ諸国をはじめ各国から閣僚級の代表が参加し盛況を呈しており、イラクが国際社会復帰を目指す上でかつてない追い風が吹いている状況である。その最中に国連だけでなくOPEC諸国とも気まずくなるような対応を取ることは不利であるとの判断があったものと思われる。実際問題として、11月7日には、ジェイハンからの船積みは予定されておらず、この日の船積み中断は、需給に対して影響がないものであった。
次に、イラクはMina al-Bakrからの輸出を中断させたくない事情があったのではないかと思われることである。両港とも石油を輸出するにあたっては国連の監視が行われているが、ジェイハンがトルコ領内であるのに対して、Mina al-Bakrはイラク領内であり、イラク政府としては国内の港からの輸出によりメリットを見いだしているものと思われる。真偽のほどは確かではないが、かねてよりイラクはオイル・フォー・フード計画における原油の購入者に対して、公式販売価格での 国連の管理するエスクロ勘定への支払いとは別に、1バーレル当たり10 - 20セントの取引料を直接イラクに支払うことを要求しているとされていた。さらに2000年6月からは、Mina al-Bakrから船積みする船に対して同港の維持費として1隻あたり数万ドルにおよぶポートチャージを直接イラクに支払うよう要求しているとも伝えられている (PIW, 2000.10.16)。これらの収入は直接フセイン政権に渡っており、トルコ等との国境貿易と並んで政権の大きな収入源にまで成長しているものと思われ、Mina al-Bakrからの輸出を中断することを避けたものと思われる。
ちなみにイラクは第九次オイル・フォー・フード計画への更改を目前に控え、原油購入者に対して1バーレルあたり10 - 20セントといわれていた取引料を50セントに値上げし、さらにこれに従わない原油購入者に対しては第九次計画での原油購入契約の対象者から除外すると通告している (Reuters, 2000.11.15)。イラク政府は貿易フェアで体感したイラクに対する追い風を背景に、国連経済制裁弱体化を目指し新たな試みを実行しているようにも思われる。(三田)